レポート#3

 前回の練習見学に引き続き、「慶應スポーツ」の学生が、722日に赤羽スポーツの森競技場で行われた練習を見学させていただいた。今回は、3回目ということで、焦点を選手から競技を支えている方へと移し、車いすフェンシングを取り巻く環境、コーチからの視点を核に、裏側から競技の魅力を伝えたい。

 

・地域からの支援

 

 

  フェンシングという競技の起源は、中世のヨーロッパまで遡る。非常に歴史のある競技であり、健常者フェンシングは、1896年の第1回アテネ大会から、車いすフェンシングも、1960年の第1回ローマパラリンピックからの正式種目である。車いすフェンシングは、伝統のある競技にも関わらず、日本ではあまり盛んとは言えず、昨年までは選手が2人しかいないという状況で、練習場も本部のある京都のみであった。そんな中、2015年2月から東京都赤羽の赤羽スポーツ森公園の一室を練習場として利用することが可能となり、関東在住の選手たちに練習の場が与えられた。車いすフェンシングは試合に大きな器具を使うため、道具を利用できる練習場所の確保は必要不可欠であり、練習環境が整えられたことが競技人口の増加に一役買っていることだろう。練習場の提供は、北区の2020年東京パラリンピックに向けたパラ競技支援の取り組みの一つであり、競技に必要な道具の購入も区が負担しているという。車いすを固定するピストがなければ、試合ができないと言っても過言ではないため、北区からの支援は、車いすフェンシングを支える大きな存在となっているようだ。私が見学に伺った練習にも、北区の職員の方々が足を運ばれており、練習を見学されながら、選手やコーチとコミュニケーションを取る様子が見られた。

 

レッスンをとる選手(左)とコーチ(右)
レッスンをとる選手(左)とコーチ(右)

・「レッスンをとる」

 
   

次第に競技人口が増加しているとはいうものの、まだまだ経験が1年にも満たない選手が多いのが今の現状。そこで大事になるのは、コーチとの練習である。フェンシングと関わりのなかった私は、練習は選手同士が剣を突き合うことで成り立つものだと思っていた。対戦型の練習ももちろん行われるが、主に練習は選手とコーチが向かい合って行われるという。その練習を、フェンシングでは、「レッスンをとる」と言うそうだ。私には聞き慣れない言い回しであったが、練習風景を見ると、その様子、言葉の意味を理解することができた。

          

コーチが選手に指示を出し、選手は剣を振る。するとコーチは、剣の角度や位置を調整し理想の形へと近づけていく。対戦という形では習得し得ない細かな部分を学ぶことが、「レッスンをとる」ことの目的なのだろうと感じた。『多くのコーチと「レッスンをとる」ことで、選手は自分に合った戦い方を習得できる』と、車いすフェンシングチームの指揮を取る小松真一監督は話してくださった。選手が増えたからこそ、指導者の必要性も大きくなっているのだろう。

 

 

熱心に選手に向き合う江村コーチ
熱心に選手に向き合う江村コーチ

・活躍する大学生コーチ

 

  指導者の中心となるのは大学生コーチ。私が見学に伺った時にいらした2人のコーチは、代わる代わる多くの選手相手にレッスンをとり、助言をし、試合を行っていた。休む間もなく選手と向き合う2人のコーチの額からは汗が流れ落ち、その表情からは練習会への熱心さが伺えた。

  今回、2人のコーチのうち練習を取りまとめる立場にある、江村将太郎コーチにお話を聞くことができた。江村コーチは、大学に通いながら、フェンシングのクラブチームに所属している選手でもある。練習をしつつ、子供たちにもフェンシングを教えており、江村コーチの生活はフェンシング一色であるように感じた。江村コーチが車いすフェンシングに関わり始めたのは2年ほど前。今は半分以上はご自身で進行を行えるほどに慣れてきたそうだ。それでも、コーチが口にしたのは、他のコーチへの感謝の言葉だった。コーチがいなければ、練習が全て自主練習になってしまうため、コーチが多いほど練習でできることが増えるとのこと。「他のコーチがいないと全然進まないので、助かってます」とおっしゃり、感謝の気持ちを話してくださった。また、指導面で難しい点はあるかという質問に対しては、「自分がやっていることをどう上手く伝えるかが難しい」とおっしゃった。選手としての面もあるからこそ、ご自身が学んだことをいち早く選手に伝えたいという気持ちを感じたお話だった。

 
   

  フェンシングに対して熱い思いがあるのは、選手だけではない。コーチの強く熱い思いがあるからこそ、今、車いすフェンシングという競技は前進し続けることができているのだろう。

 

 

・まとめ

  練習を見学するにあたって、まず目につくのは選手たちが努力する姿である。しかし、その努力の裏には、地域の支え、コーチの力の存在が大きいということがわかった。選手、コーチ、地域が助け合い、和やかではあるが、個々が真剣に取り組む練習会。この練習会には、選手の力を育む要素が詰まっていると感じた。8月7日には、車いす日本選手権大会が開催される。練習を糧に力を伸ばしている選手たちの戦いが楽しみだ。

 

(記事・清野日奈子)