レポート#2

 毎週金曜日、東京都北区にある赤羽スポーツの森競技場というスポーツ施設の一室で行われているパラスポーツがある。車いすフェンシングだ。残念なことに、日本ではまだポピュラーなスポーツとは言い難く、選手人口も多くはない。北区の地域振興部の支援の下、先週に引き続き、インターンの一環として、私たち「慶應スポーツ」の学生が、その練習を見学させていただき、直接選手の声を聞かせていただいた。車いすフェンシングを生で見るのは初めての2人が、練習の見学や選手への取材で感じた魅力を伝えたい。

実践練習の様子 (フルーレ)
実践練習の様子 (フルーレ)

 

○実戦練習を見学して

 

・車いすフェンシングの種目とカテゴリー

 

 まず、車いすフェンシングといっても、その内訳は様々なので、少し説明したいと思う。車いすフェンシングには、フェンシングと同様に3種目ある。エペ、フルーレ、サーブルの3つだ。練習において多くの選手が行っていたのがフルーレだった。この種目では、「攻撃権」が関わってくるため、ただ突けばいい、というわけではない。「攻撃権」は自らの剣で相手の剣を払うことで移り、攻撃権のない状態で相手を突いても点にはならない。

 しかし、それとは別に、車いすフェンシングではそれぞれの障がいによって、クラス分けされ、3つの競技カテゴリーに分かれる。

カテゴリーA:腹筋のある競技者

カテゴリーB:腹筋のない競技者

カテゴリーC:握力のない競技者

 

この3つの中ではカテゴリーAとカテゴリーBがパラリンピックにて行われる。

 ここで筆者が驚いたのは、怪我の部位でカテゴリーが分けられるのではないということだ。車いすフェンシングは車いすの上で座って行う競技。よって、腹筋が使えるか否かは避けたり、倒した体を起き上がらせたりする際に重要になってくるのだという。また、フェンシングは剣を握って突く競技なので、握力があるか否かも大きなポイントになるというわけである。

・試合が始まると空気が一変して・・・
 

今回取材で訪れた赤羽スポーツの森競技場では、北区の地域振興部の支援の下、週に一回こうして10人ほどの人数で車いすフェンシングの練習が行われている。場所はグラウンドに併設しているホールの一つで、当然この競技専用の練習場ではない。そのため車いすフェンシングの練習は、試合のための設備を準備することから始まる。まず床に競技用のマットを敷き、競技用の車いす、そして前回の記事で紹介したピストと呼ばれる器具を、コーチやトレーナー達が入念に取り付けていく。ピスト間の距離は選手の腕の長さに合わせるため、1試合ごとに調整しなければならないそうだ。選手たちがユニフォームを着てマスクを被ると、今度は電気審判器の動作の確認が行われる。車いすフェンシングで用いられている剣や防具は、フェンシングと同じものであり、判定も同様に機械で行われる。実際の大会の場でも行われていることだが、競技を始める前にこの機械が正しく作動しているかどうか確かめる必要があるのである。この段階で、開始からすでに30分近くが経過していた。このあたりが、まだ知名度の高くないスポーツの苦悩、といったところなのだろうか。

 

準備が終わると、さっそく実戦形式の練習がスタート。基本的なルールや道具はフェンシングと変わらない。一番の違いは、車いすがピストで固定されており、一定の距離の中で上半身のみで戦うということである。また実際に体験してわかったことだが、試合で用いる剣は予想以上に重い。選手達はこの剣を、上半身の力だけで操らなければならないのだ。しかもマスクと分厚いユニフォームを装着した状態でプレーしているのだから、「1試合終わったら汗だくだよ」と言っていたのも頷ける。

 

試合の中で何よりも印象的だったのは、選手たちの凄まじい集中力。練習自体は穏やかで和気あいあいとした雰囲気の中で行われていたのだが、審判の「Allez!(始め)の合図が掛かるとその空気は一変する。車いすフェンシングは、ほんの一瞬で勝負が決まるスポーツ。わずかな時間も集中を欠くのは命取りである。何としてでも勝とうという選手たちの凄まじい気迫を、マスク越しからも感じ取ることが出来た。試合が終わると、審判の合図で敬礼し、相手と握手を交わす。柔道などと同じように、「礼に始まり礼に終わる」、という精神もこのスポーツの魅力の一つなのだろう。

余談ではあるが、「Allez!」という言葉があったように、競技中の合図、及び競技の用語は多くがフランス語だそうだ。これはフェンシングという競技が、ヨーロッパの剣術に由来するためらしい。今回の取材では、選手たちは練習後にフランス語のテストを課せられており、四苦八苦しながらも懸命に問題を解いている様子が見られた。筆者はもちろん読者の皆さんも、車いすフェンシングについてより理解を深めれば、フランス語の学習にも役立てることが出来るかも(?)しれない。

選手が使用するマスクと剣
選手が使用するマスクと剣

 

・弱い自分が強くなれる

 

車いすフェンシングは、日本では本格的に始まって間もない競技である。今日練習に参加していた方々も、ほとんどの人が始めてから2,3か月程度で、長くても半年といったところだった。車いすフェンシングを始めようと思ったきっかけは、「車いすバスケなどに比べたら敷居が低かった」「団体の人に熱心に勧誘された」「何も知らないから逆に興味深かった」など人によって様々だった。だが全員に共通していたのは、この車いすフェンシングというスポーツに心を奪われ、虜になってしまったということである。競技の魅力について何人かに質問してみると、「力だけが決め手ではない」「どうやって相手の裏をかくか、考えるのが楽しい」という声が多く聞かれた。ここは戦略のスポーツならでは、ということなのだろう。フェンシングという競技は経験者もそれほど多くはないため、練習を始めるまでは皆ほぼ互角といっていいだろう。老若男女を問わず誰でも楽しめるというのは、他のパラスポーツにはない魅力なのかもしれない。実際、練習には子供から大人まで幅広く参加しており、女性の参加者も多く見られた。

 

一つ印象に残ったのは、「足が動かない弱い自分が、強くなることが出来る」という言葉だ。この競技というのは見ている人も勿論だが、実際にプレーしている自分が一番勇気づけられるのだという。これは車いすフェンシングというよりパラスポーツ全体の魅力といっていいかもしれない。障がいを抱えた人がスポーツを通して夢や希望をつかむ、その一つの手段として、運動能力に頼らずとも勝てる車いすフェンシングという競技が貢献できるのではないか。そのようなメッセージを、「弱い自分が強くなれる」という言葉の中に感じた。

 

かくいう筆者も、車いすフェンシングに魅了された一人である。圧倒的な競技スピードの速さ、相手との駆け引きなど、この競技の見所についてここまで記してきた。だが正直に話すとこの文章だけでは、その魅力は半分も、いや、ほとんど伝えきれていないだろう。この記事に目を通してくださった皆様には是非、実際に自分の目で車いすフェンシングを見て頂きたい。ほんの数分だけでも、この競技の奥深さ、そして面白さを感じることが出来るだろう。

 

○まとめ

 

 最初にも書いたように、車いすフェンシングはまだ日本でよく知られているとは言い難い。それもそのはず、昨年まで競技人口はたった二人だった。だが、東京オリンピック、パラリンピック開催や、東京での練習を始めたことにより、徐々に選手が増えてきている。日本では、健常のフェンシングと一緒に練習する場がないことや、京都では毎日練習できるが東京は週一回しかできないなど、まだ完全に、十分な環境が作れているとは言えないかもしれない。2020年の東京でのパラリンピックを目指し、もっと色々な場所で、たくさんの人が、多くの時間、練習できる機会が増えればと思う。そして、それに先駆けて、私たちの活動により、車いすフェンシングの認知を広めていきたい。

 

 

(慶應スポーツ新聞会・徳吉勇斗, 高山実子)